Remake北欧ビンテージチェスト 抽斗製作と補強材追加/破損修理と組み直し

リメイク前

  • こちらの北欧チェスト。
    お客様が10年以上前に購入されて使用し続けていた大切な家具。しかし、長年の使用による負荷で抽斗も大破してしまい、側板は外側にたわんでいる状態でした。
    非常に困難で、手のかかる作業となります。

  • 抽斗は6つのうち、無事なのはこの4つ。ただし、全て滑りの調整が必要になります。

  • 大破してしまった抽斗の2つです。鍵のついた1段目は前板が完全に真っ二つに割れてしまった為、こちらは先に圧着してから、新たに抽斗の構造材を作り直します。
    もう一つの方は、前板以外の破損なので、欠損部分を削り取って埋木処置を行い、組み直しを行います。

  • 側板の抽斗用レールも材料が擦り切れて、各所破損が目立ちます。レール位置は大変重要なので、外す前に元の位置を印しておきます。そして、こちらも全て新たに材料を製材して作り直します。

  • 背板も作り直します。

  • 破損した抽斗の前板に施されている指の引っかかり部分は厚みが薄く、壊れた衝撃で割れてしまったようです。
    こういった箇所は圧着だけでは強度が乏しいため、圧着後に埋木処理を行います。

  • これは箱本体の下フレームです。手前と奥に二本入っていますが、構造的に強いとは言えませんでした。真ん中に一本、新たに補強材を加え、更に4箇所の角内側に隅木という三角の補強材も追加して取り付けます。

  • 中の材料がパーティクルボードという木材の細かいチップが圧縮された材料に化粧板が貼られているものです。
    中が崩れやすい為、あらゆる試行錯誤をしながら真っすぐ接着するようにしなければなりません。とても大変です。

  • 側板はダヴテイルという組み手加工で接がれています。再利用できる部材は再利用をします。

  • 新規に作ったレールたちです。
    ビス固定をして、簡単に外れないようにします。ピンネイルなどで仮止めをして抽斗を出し入れして調整を行いながら、最後は側板に穴を開けて位置決定をします。

  • 真っ二つの抽斗の圧着です。
    この接着後に、更に裏側部分に補強として合板をさらに圧着して接着します。更に、破損した側板と背板部分も作り直します。文字通り、完全にこちらは別物の抽斗となります。

  • さて、裂けてしまった箇所はこうしてルーターで穴を開け、埋木の下準備をします。

  • 木目が違うのでパッチワークのような見た目になりますが、ここは着色で目立たないように仕上がりを最後に調整します。

  • 材料による場合も勿論、穴・溝加工された周辺はこのように欠損や破損しやすいです。
    このように埋木処理後に、形状を合わせて加工し直します。

  • こちらは抽斗の材料を製材した状態です。
    ここから、抽斗の箱を作ります。接合するための接ぎ加工と底板をはめ込むための溝加工、そして修理した前板に合わさるように側板をビス固定して、ビス穴は埋木処理をして外観を整えます。

  • 抽斗を組んで接着してます。

  • このような感じに側板と背板が合わさります。

  • 前板の側部分です。上の隙間も埋木してあげます。

  • ようやく、形になりましたね。
    あとは滑り調整と底板固定、そして割れなどの補修です。

  • 底板が入る溝です。底板は幸い破損がなかったため、既存の物を使用します。

  • さて、こちらはもう一つの破損した抽斗です。部材選択をして、破損個所を埋木後や加工後、組み直します。
    箱というのは、角がしっかり出ていないと歪んでしまい使い物になりません。こういったものを締めるとき、コーナークランプという治具を使って、90度を維持しながら圧着をします。

  • さて、本体の締めに入ります。
    冒頭で説明した、補強材です。

  • 真ん中にはこのように、ホゾ加工で入り込みます。
    面積を広くして、強度を保ちます。

  • 段々形になってきましたね。

  • さて、これはたわんだ側板を矯正する補強材の框です。
    今回、抽斗の重さでたわんで変形した側板が抽斗を支えきれなくなり、今回このような破損につながったと考えられます。

  • この框を箱の真ん中あたりに、抽斗に干渉市内一で取り付けます。こうすることで、側板が外にたわむのを防ぐ役割を持ちます。

  • 位置を何度も確認して、このように取り付けます。

  • 左右をビスで固定します。

  • あとは抽斗の底板と干渉しないか、引き寄せた側板によって抽斗の側板が狭くなっていないか、更に抽斗の滑り調整を重ねます。

  • ここまで行ったら再塗装です。
    ここまでくるのには、かなり長い道のりでした。

リメイク後

  • まずは二つに割れていた抽斗の前板です。
    亀裂部分は断面部が崩れてしまっていた為、パテ処理を施し木目描きを行っております。
    正面から見たとき、各抽斗の上下の隙間も均一になるように調整しました。

  • また、大きく割れてしまった箇所の埋木も周囲の色味に合わせて着色をしております。

  • 抽斗は何度も調整を行い、最後は潤滑剤で滑りを良く処置しております。

  • 本体に脚を取り付けた状態で下からのぞき込むと、中心の補強材と、三角の隅木が見えます。
    これらの補強材によってこれまでよりも強い足回りになっております。

  • これは真ん中の補強框です。
    通常使用している時には、見えない部分なので抽斗の中からのぞき込まない限りは気にならないかと思います。

  • 新規に作り直した1段目の抽斗の側板です。三つの丸い箇所はビス固定してあり、木栓処理を行いました。

  • 背板も交換しました。
    箱物家具は背板で箱全体を支える、背骨のような重要な構造体として役割を持っています。

  • 抽斗の底板は既存の物を使用しておりますが、たわみが大きく、補強框部分に干渉する物はたわみの少ない板材に交換して、底板を既存の色に合わせて塗装しました。

  • 外観も一度剥離を行って、オイル仕上げを行いました。
    各所、チップしていたり既にパテ処理がされていた箇所など、目立つ傷や色抜けはタッチアップで色合わせしてあります。

  • いかがでしょうか。
    破損も含めて、全てバラバラの状態だった状態のチェストが再び使用できるように復活しました。

  • ちなみに抽斗の前板に使用されている突板は、こうして前方から見ると木目が繋がっており、1枚の板材から切り出されています。抽斗の場所が入れ子になった時や、順序が分からなくなった場合はこうしたヒントをてがかりにすることもあります。

  • 機能性も外観も、全てうまくまとめ上げることが出来ました。

今回の修理及びリメイク。
メインとしては、
・たわんだ側板と箱自体の構造の補強
・破損した抽斗の作り直しと補強
・抽斗の機能性の復活
が大きな課題でした。作業を行っていく中で、常に想定外の課題がつきまとい、試行錯誤を行い作業を進行していきました。
材料自体も決して丈夫な材料ではなく、表層もデリケートだったため、思い切った処置ができなかったりしました。やはり大きな問題としては、補強材を追加するに至った、オリジナルの構造そのものによる部分もありました。
こういった数々の要因をクリアして形にするまで、弊社の家具修理における長年の経験と知識があってこその仕事ができたように思います。
またこうしたチェストのような抽斗は、特にレール部分がすり減っていってしまうため、使用中に違和感がでてきたら、レール部分を交換するなど早めに対策を行ってあげることで大きな破損への防止ができます。そういった意味では、部材的に消耗品であるという認識を持っていただくと良いでしょう。

今や北欧家具に限らず、ビンテージ・アンティーク家具は個体数も減り、使用されている材料の貴重さも含め、決して使い捨てで終わらせてはいけない歴史の財産のように個人的には考えています。
どれだけ壊れてしまっても、また修理して使いたいというお客様のお気持ち一つで生き続ける家具もあるのです。
こうしてまた一つのビンテージの家具がアンティークとして長い月日を重ねていけると思うと、とても感慨深く喜ばしく思います。