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repair of a vintage furniture

東京では穏やかな秋空が広がっており、
ここThree Birds工房もゆったりと作業をしている日々です。
しかしながら台風による浸水被害や土砂災害、つい先日には御嶽山の噴火等
最近の日本を取り巻く天候は全く穏やかではありません。
恐らく大規模な気象、地殻変動が訪れている時期に差し掛かっているのでしょう。
関東、東海地方の地震の事もありますし、
常に準備をしておかなければと
ニュースを見るたびに気を引き締め直しています。
さてさて、今回はイギリス、アーコール社の修理について、
さらにはヴィンテージ、アンティーク品の修理について
思う所を書いていこうかと思います。

これはアーコールのネストテーブルですが、
天板の接ぎ部が劣化し接着が切れてしまっている状態です。
この場合は接ぎの断面を鉋でフラットにし再接着をするのですが、
フラットにする作業時に削り過ぎると形そのものが崩れてしまうため
できる限り切削作業を抑えつつ、精度を出す事が重要です。

削り完了。
次に接着作業に入るのですが、天板の形状はラウンドしているため
そのままでは圧着工具を掛ける事ができないので合板で治具を作り、
しっかりと圧着できるように準備します。

この様な感じで圧着、固定します。
接着できたら塗装修理に入ります。
実は写真の状態では剥離、サンディング後になり、
エルム(楡)材の生地が出ていますが
元は焦げ茶の塗装が掛かっているものでした。
アーコールの濃い塗装のものは、
基本的には完全に剥がせばナチュラル色での再塗装も可能ですが、
モノによっては塗装が生地に深く浸透してしまい
サンディングを掛けてもシミのように残ってしまう事があります。
そればかりはやってみないと分かりませんので、
アーコールに限らず濃い塗装の家具全般、
ナチュラル色に再塗装をお考えの場合は注意が必要です。

上が無塗装状態で、下二つがシェラックニスを2~3発掛けた状態です。
このテーブルは目立つ程のシミは残りませんでした。

トップコートのラッカーを入れ完成した状態です。
次にアーコールチェアの修理についてです。
アーコールのチェアの構造は丸ホゾにクサビを打ち込んで固定しています。
ですので、単純にホゾ部を補修してボンド圧着固定だけでは本来の強度は得られない為
クサビの打ち直しが必要となります。
それ故、一般的なホゾもしくはダボ構造のチェアの補修よりも手間が掛かる構造です。

まずはこのようにバラバラに解体します。

クサビはこのように再制作します。

クサビ打ち込み後です。
しっかりとクサビが効いて初めて本来の強度が復活します。
アーコールの修理についてでした。
先述で再塗装について少し触れましたが、
引き続き古い家具の塗装修理について私なりの見解を書こうかと思います。
今日の日本においてのヴィンテージ、アンティークの塗装修理は
サンディングまで施した完全な塗り替えの塗装方法か、
もしくは塗膜剥離、木地調整作業無しでワックス、オイルがけのみの方法が主流になっております。
どちらも長所、短所はありますが、
サンディングまで掛ければコンディションの良い家具であれば
新品に近い状態まで持っていく事が可能です。
逆に木地調整無しでワックス、オイルを上塗りする方法であれば
経年による表情をそのままに残す事ができます。
但し、短所としてサンディングしてしまうと経年の表情全てを削り落としてしまう点があります。
それは、ヴィンテージ、アンティークとしての価値を根こそぎ落としてしまうと言う意味になります。
また、突き板(無垢材を0.25mm~0.4mm程度に薄くスライスしたものを合板に貼り合わせた材料)を
使用した家具にサンディングを掛けると当然突き板は更に薄くなってしまいますので、
その後の塗装修理は一層難しくなります。
また、削り落とす事によりオリジナルの形状は必ず甘くなります。
フォルムを考え抜かれて作られたデザイナーものなどは、形状の変化は特に致命傷になります。
家具の歴史が永いイギリスなどでは、古い家具の塗装修復方法で
サンディングを選択する事はまず無いそうです。
では、剥離、サンディング作業をせずメンテナンスワックス等を
塗膜上から塗って終わりにすれば良いかと言うと、単純にそうとも言い切れません。
そもそも何故木材に塗装を施すかと言うと
見た目の美しさを引き出す事は勿論の事、木材の劣化を防ぐためにするものです。
木材の劣化進行を防ぐ代わりに、塗膜は外気や紫外線に触れ必ず劣化します。
塗膜の劣化を放っておくと次に木材自体が劣化し始めます。
ですので、塗膜の劣化が認められた場合は再塗装修理は必須となります。
塗膜コンディションが良い場合はメンテナンス剤の塗布のみでも構いませんが、
劣化している場合はメンテナンス剤のみでは間に合いませんので
新たな塗料(オイル、ラッカー、ウレタン等)を塗布する事になります。
ワックス等のメンテナンス剤は塗膜としては弱い為、それを塗布するだけでは再塗装にはなりません。

メンテナンス剤はあくまで日々のお手入れで使用するのが基本的な考え方になります。
塗料を塗布するには必ず下地処理が必要になります。
塗装用語だと(足ツケ)と言ったりもします。
下地処理とは、元の塗装を剥離し、木地を荒らしてあげて塗料の乗りを良くする事です。
この作業なしでは美しい塗装は望めないため、
必ず足ツケをしてから新規塗料の再塗装となります。
私はこの下地処理方法がヴィンテージ家具の再塗装で一番のキモになると考えております。
ではどのようにするかと言いますと、
古い塗膜を剥離剤にて剥離後、もしくは剥離中にサンディングペーパーは使わずに
スチールウールや樹脂製のウールを使い木地処理をする方法が最善、ベストと考えます。
この方法であれば木地を全て剥がす事は無く、尚かつ下地処理もできます。
要するに、古く劣化した塗膜を剥がしながらも木地を侵さず
新たな塗料を塗布できる下準備ができると言う事です。
勿論サンディングペーパーを使わないためシミや傷などは残りますが、
それこそが経年、言わば時代の価値そのものですので、
考え方としては、経年の表情を新たな塗料で再度閉じ込めてあげる、
と言った感じでしょうか。
勿論仕上がりのイメージや好みは人それぞれだと思いますので
ご希望であれば上記のアーコールのようにサンディングまでかけて
ピカピカの仕上がりにも対応しますが、
ヴィンテージの考え方としてこの様な事もあると
頭の片隅にでも置いていて頂ければこれ幸い、です。
長々と真面目に説明してしまいましたが、
家具に限らず、家や車等々、ヴィンテージ品やヴィンテージ修復の概念が日本にも根付き、
永く大切に受け継ぎながら使っていくというムードができていけば
素敵だなあと思う次第であります。

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